『幸子』
〜第7話〜
「できない!私には想像なんてできない!」
幸枝は甲高くない声で後藤ひろみに言い放った。
「私には…私には幸子よりもたくましい想像なんか出来やしないわ。
私にはあんな想像力もなければ経験だってないの。…うっうっ、hぶぁぁぁー。」
更年期障害を迎えてた悲痛な声が女子トイレの中に響き渡った。
「経験がない…」
どさくさに紛れて女子トイレにいる後藤ひろみは静かにつぶやいた。そして幸枝の肉体と
隅に佇んでいる汚物入れに目をやった。『…「汚物入れ」なんてひどい呼び名だ』
「全く…全くないというわけではないの。でも私には、今の私にはひろみとの行為を想像
するなんて出来やしないわ。私は負けたの。娘の幸子に負けたダメな女なの。
更年期障害を迎え入れた臭くて醜いダメな女なの。キチガイ以下よ-!うっうっ、hぶぁぁぁー。」
「幸枝!泣くな!泣くな更年期。びぃびぃうるせーんだよ。」
「へっ?」
「あっ、ごめんなさい。つい本気で」
「本気?」幸枝は自分に対して本気で怒鳴ってくれた事がなんだかくすぐったかった。
「幸枝さん、いいですか。あなたは今、経験があまりない。そう、おっしゃいましたよね。
でも、だからこそ色々な想像ができるんじゃないんですか。
経験がないからこそ枠にとらわれずに自由な発想ができるんじゃないのかな。
やってみなきゃわからないじゃないですか。
想像できるかできないかなんて、そんなの想像してみないとわからないじゃないですか。」
ひろみはハナの頭に汗をかきながら一気に話し続けた。
「さぁ、さぁ想像してみてください。がんばって想像してみてください。
想像しなさい。はやく。さぁ想像しなさい。想像するんだ。
アインシュタインも言ってます。人間は99%の努力と1%のひらめきだと。
努力しなさい。努力して想像しなさい。
私が直接聞いたわけじゃないがアインシュタインも言ってるんだ!
さぁ、想像するんだ。この私を使って想像するんだ。早く、早く想像するんだ。
私で想像するのだ-。これならどうだー!」
そして後藤ひろみはおもむろに上着の白いタンクトップを脱ぎ捨てた。
「これの方が想像しやすいだろ。はぁはぁ。」
「もう、ひろみったら。」
幸枝は後藤ひろみの本気具合いに答えたくなった。
そしてゆっくりと重いまぶたを閉じた。
「始めるわよ。」
「幸枝さん…」
「へー意外と…なんだ」
「なんだか恥ずかしいよ。幸枝さん。僕、恥ずかしいよ」
「ふふふ。ここを人さし指の第一関節と第二関節との間で…えい、えい」
「幸枝さん、何を想像してんだょ‥。何だか恥ずかしいよ。」
「あぁぁ。ひろみ。ひろみぃぃぃぃ。」
1%のひらめきと99%の努力が幸枝を想像の世界へといざなっていった。
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