giggnet

小 説 劇 場

登場人物


杉本勇

後藤ひろみ

上村幸枝

上村幸子
『幸子』
〜第4話〜

 「ロバルト・ロベルト・Jr !?」
 幸枝はそうつぶやいた。しかし、担任の杉本は幸枝の言葉を無視するかの様に話を続けた。
「アングロサクソン人なんですよ。いえね、こないだ社会の授業でアングロアメリカの授業を受けたんですよ。その時にアングロサクソン人の話もあったらしく‥。どうやらその時に‥。」
『アングロサクソン人』この言葉が幸枝の頭の中にとても大きく写し出されていた。自分の娘が授業も受けずにアングロサクソン人との行為を一人想像していたのだ。幸枝にとって夫、幸男が自分を女にしてくれた唯一の男である。その幸男との夜の宴をアングロサクソン人のロバルト・ロベルト・Jrに置き換え、こんな事を想像したのかしら、あんな事を想像したのかしらと、幸子が想像したと思われるありとあらゆるパターンを幸枝はシュミレーションをし、一人、下腹部を熱くさせていた。
 下腹部の熱くなった幸枝は、保健体育の担当教師である後藤に、どうしても聞いておきたい事があった。
「でも後藤先生‥」
その時、後藤ひろみは幸枝の声をかき消すかのように大きな声でこう言った。
「ひろみでいいです」
 後藤の言葉には力強さが感じられた。『ひろみでいいです』と後藤は言ったのだが、その力強さからは『後藤』ではなく『ひろみ』と言え、とでも言うかのような圧迫めいた力強さがそこにはあった。
「でもひろみ先生‥」
「ひろみでいいです」
後藤は苛立ちを隠しきれずにいた。早く『ひろみ』と言えといわんばかりに幸枝を睨み付けていた。
『ひろみ』、後藤は自分の名前を呼ばれる度に何度となく興奮してきた。それ程に自分の名前を愛していたのだ。そんな後藤の変質的な癖を幸枝は知る由もなく、ただ純粋に、自分に『ひろみ』と呼び捨てをしあうような、そんな関係を持ちたがっているのだと幸枝は考えてしまっていた。
 幸枝は頬を紅潮させ、目を潤ませながらやさしくつぶやいた。
「ねぇ‥ひろみ‥」
 そう幸枝が話し始めた時には、外はすっかり夕暮れにつつまれ教室内にはわずかな光がさしこんでいた。その光はまるでリアルと幻想を隔てる意志を持ったラインの様に4人の間を通りこんでいた。



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