『幸子』
〜第2話〜
4人の沈黙が長く続いていた。担任の杉本にとっては、ほんの一瞬の出来事が何時間にも感じられた。担任としての責任感からなのか?それともこの重い空気に押し出されるように出た言葉なのか?杉本はゆっくりと口を開いた。
「さきほど話しました通り、こういった事自体、前例が無いもので、正直学校側と致しましてもどう対処していいのかわからないんですよ‥。お母さん‥
お母さんはどうお考えですか?」
「私と致しましても幸子はまだ16才ですし、年齢的にも‥」
幸枝はそう言うと幸子に目をやりじっと見つめていた。そうなのだ。幸子はまだ16才なのだ。かじるとまだ甘酸っぱい16才なのだ。シックスティーンなのだ。杉本は教育の現場にたずさわってまだ5年と月日は浅いが、自分の生徒、しかもまだ16才の少女が杉本ですら経験した事の無い桃源郷のような出来事を経験してしまったのを考えると、杉本は困惑するしかなかった。
「そうですよね、幸子君はまだ若い。まだ16才ですし‥」
そう言いかけると後藤ひろみが割って口を開いた。
「こういうのは年齢の問題なのでしょうか?」
全員の動きが止まり、後藤ひろみに目を向けた。後藤の声には妙な温かさと、フェロモンが感じられた。
「こういうのは年齢の問題じゃないと思うんですよ。違いますか?違いますか? 」
教室中に響きわたり廊下にまで聞こえてしまいそうな声で言い放った。杉本は考えていた。こういった張りつめた空気の中で声がかん高いとどうしてもまじめな事を言ってるように思えないな‥。と。
しかし冷静に考えると後藤の言ってる事もわかる。が、しかし母幸枝の気持ちもわかる。
「幸子‥。幸子はどう考えてるんだ‥。」
杉本は、先ほどから下をうつむいている幸子に静かな口調で聞いてみた。
「私‥。私産みたい」
全員が息をのんだ。幸子は『産みたい』そう言ったのだ。
その言葉に動きは止まり、あきらかに困惑の表情を浮かべていた。
杉本には一体どうなっているのかわからなくなっていた。頭の中は混乱し何と言っていいのかわからず、ただ幸子を見つめるしか無かった。
そう、事実、 幸子は若くして妊娠、そう、想像妊娠ををしてしまっていたのだ。
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