『幸子』
〜第5話〜
『ひろみ…ひろみ…。ねぇ、ねぇってば…ひろみ。もう、ひろみったら寝ぼすけなん
だから。ひろみ…
ひ・ろ・み』
「ひろみ、どうかなさいまして」
後藤ひろみはハッとした表情で幸枝を見つめた。愛すべき名前を呼ばれた後藤ひろみ は、幻想の中で至福の時をむかえていたのだが、幸枝の声により、一個人ひろみから一教師後藤ひろみへ
とリアルな社会へ 引き戻されたのだった。
「どうしましたか?」
後藤は平然を装い、幸枝に逆に質問をぶつけてみせた。
「いえ…。一つ伺いたいんですけれども、ねぇ、ひろみ、アングロアメリカの授業を受けただけで想像妊娠してしまうものなのでしょうか?」
そうなのだ。幸枝はずっと疑問に思っていたのだ。たかが社会の授業、しかもアングロアメリカの授業。 そんなものを聞いただけで、我が娘、幸子は興奮をし、ド−パミンを分泌させ、体中を熱くさせ、毛穴から
フェロモンを出し、メスとして本能丸出しの行為を想像し、そして妊娠をしてしまったというのか。 いや、想像妊娠をしてしまったというのか。
幸枝には理解しがたい事だった。
「まぁ、一概には言えないんですが…」
後藤ひろみは微量のフェロモンを出しながらこう切り出した。
「一概には言えないんですが、この年代の子、特に幸子君のように真面目で素直な子は、いやらしい事への想像力が非常にたくましいんですよ。だからといって別に恥ずかしい事ではないんです。人間として年頃になると、やらしい事を想像するのは当たり前の事なんです。むしろ、それだけの想像力があるって事は誇れる事なんです。なぁ幸子、そうだよな。ロバルト・ロベルト・Jrの事をいろいろ想像しちゃったんだよな。」
幸子は小さく頷いた。
「ほぅ、そうか。やっぱりいろいろ想像しちゃったか。幸子、どんな事を想像したんだ。ロバ・ロべさんとのどんな行為を想像したのか、先生に言ってごらん。ほぅら、言ってごらん。」
後藤の言葉にはいやらしさが満ちあふれ、彼の性癖であるサディスティックな一面が 垣間見えた。
「それは…」
幸子が口を開くと後藤はゴクリと唾を飲み込んだ。そして杉本、幸枝も飲み込んだ。今から幸子がどんな事を話し自分達を興奮させるのか、三人の大人達いや三頭のケダモノ達が期待に胸を踊
らせていた。
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